『サピエンス全史』から時代主義へ

一昨日放映されたクローズアップ現代「幸福を探して 人類250万年の旅」を観て、『サピエンス全史』の存在とその著者ユヴァル・ノア・ハラリ氏の存在を知りました。そして、いくつかの書評と著者インタビューを読んでみました。それがとても面白くいろいろな考えが浮かんできました。

僕の理解だとハラリ氏の考えを要約すると以下のようになります。

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現生人類ホモ・サピエンスが他の競合種を圧倒し、現在の繁栄に至った理由は、「虚構(フィクション)を信じる力」にあります。約7万年前の認知革命により、ホモ・サピエンスは「虚構」を使う力を得ました。「気を付けろ!ライオンだ」と言える人類種は多くいましたが、ホモ・サピエンスはこの時「ライオンはわが部族の守護霊だ」という能力を獲得したのです。このように、虚構、架空の事実を物語ることにより、多くの人の共感を得て協力し合うことが可能となりました。人々は共通の目的を持ち大きな組織を創っていきます。

宗教、国家、法律、企業、貨幣など。


これらもすべて人間が生み出した虚構なのですが、これらを信じることで複雑で高度な社会を営むことが出来るようになりました。共通の物語を持つことで人類は統合の道を辿りました。現在社会ではマスコミやインターネットにより世界の情報は瞬時に共有されます。そして、その情報により世界は動いていきます。


この動きの中で人類全体の富、そして力は飛躍的に増大していきます。ですが、一人ひとりの人間に目を向けた時、富を握るのは一握りの存在であり、多く人の暮らしは貧しくなっています。文明の発展は一人ひとりの人間の幸福には繋がっていないのです。


そして、それは個人の持つ知識や能力に関しても同じです。自然の中で自分の力で生きることが求められた狩猟採集時代の人々は現代人よりも多くの知識や能力を持っていました。彼らは、与えられた環境に自分たちを適応させて暮らしていました。それは自分たちの都合のよい世界を創ってきた現代人とは対照的で、これからの時代、人々は狩猟採集民の姿勢を取り入れる必要があります。なぜなら、現代の資本主義は行き詰まりを迎えており、これから大きな変化が起きようとしているからです。その変化に適応していくことが求められます。


ホモ・サピエンスは石器時代から多くの生物を絶滅に追いやっています。その中には、ネアンデルタール人やデニソワ人といった人の仲間も含まれます。社会の近代化や工業化が進む以前から生態系を破壊してきているのです。


このような事実は広い視点から歴史を学ぶことによって見えてきます。歴史を学ぶことにより現在信じられている価値観が虚構であり、それが生み出された過程を知ることが出来ます。そうすることで、虚構を超えたところにある真実に辿りつけるのです。


現代社会を覆っている一番大きな虚構(宗教)は「リベラリズム」です。それは何か重大な問題に直面してとき、個人が自分の内面の声に耳を傾けて判断を下すべきという考え方です。個人が重視されるため政治の問題も選挙で決めていきます。


それに対して今、シリコンバレーではあらたな宗教が生まれています。それは内面の声よりデータの判断に身を委ねる方がよいという考えです。例えば、アンジョリーナ・ジョリーが両乳房を切除したのは、遺伝情報で乳がんの発病する確率が87%であり、親族に乳がんを患った人が多いからです。


人々は中世の頃、聖典に答えを求めていました。そして、近代になると内面の自由な声に従いました。未来は膨大な情報を有するデータベースから引き出された「解答」に従う人が大半になるかもしれません。


それだけではありません。科学技術の進歩は、感情や欲望を含めて、ホモ・サピエンスそのものを変える可能性もあるのです。それがどのような変化になるかは分かりません。その鍵を握るのは、私たち人間が欲望をコントロールできるかどうかです。


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歴史を観て、現在を覆っている価値観の背後にあるものを探っていく。その姿勢はとても刺激的で面白いものです。そして多くの示唆を与えてくれます。そのためこの本は多くの人の支持を得ているのでしょう。

ところで昨年末、木の花ファミリー通信特別号が発行されました。題して「時代主義が始まった」です。ここでもハラリ氏と同じ試みをしています。広い視点で歴史を辿ることにより、現代の価値観の背後に流れているものを明らかにしているのです。ファミリー通信ではビッグバンから辿っています。そして、「時代が生命そのもの」であることを明らかにしていきます。その文章は以下のように締めくくられています。

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今こそ、私たちは自らを自我の枠から解き放ち、この無限なる宇宙の中で自由自在に生きる時が来たのです。私たちの中から願望や野心が消えた時、宇宙の真理が湧き出し始めます。そして、人類が誕生した目的にのっとった最もふさわしいポジションに立つことができるのです。その真理に目覚めた時、私たちは時代を読み、流れを感じ、今を生きる「時代人」となります。それは時代主義の始まりです。

それが、21世紀初頭にあたり、時代が私たち人類に伝えているメッセージです。

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ハラリ氏とファミリー通信。同じように歴史を辿りながら、描く未来のヴィジョンには大きな違いがあります。それはハラリ氏が個人の幸せに囚われているからだと思います。

確かにハラリ氏が言うように、現代は富の総量は増えたけれども、個々人は幸福にはなっていないのだと思います。ですが、個々人は幸福を求めていました。個々人が幸福を求め欲望を追求した結果、資本主義が生まれ、経済成長へと繋がっていったのです。その原動力は個々人の欲望であり、自分「が」幸せになることを願う自我の心が人を苦しめているのです。だからこそ、自らを自我の枠から解き放つ必要があります。ですが、ハラリ氏にはそのような視点はありません。人々を苦しめている自我の延長上に未来を描いています。それは「解答」や「結果」を求める姿勢に現れています。

本来、この世界には固定した「解答」などありません。すべてはプロセスの中で変化していきます。自我の枠から自らを解き放った時、そのプロセスそのものを味わい楽しむことが出来るようになります。その姿勢が人々に真の自由をもたらし未来を切り開いていくのです。

そして、ハラリ氏は物質にも囚われています。

ハラリ氏はライオンを事実とし、守護霊を虚構としています。ですが、なぜ物質的存在が事実であり、精神的存在が虚構となるのでしょうか?そこには一つの前提があり、そこに対する検証がされていません。認知革命は文字通り認知の革命なのだとしたら、今まで知りえなかったことを知るようになったとも言えます。宇宙のチリの中から物質が生まれ、物質から精神が生まれました。それは神の自己開示であり、それにより認識を深めていくプロセスとも言えるのです。事実、ハラリ氏も言うように世界は統合に向っています。統合とはつまり全体を貫く視点を得るということです。精神に目が開かれることにより、この世界の実相、すべてが一つである事実が見えるようになったのです。それらは変幻自在に変化しますが、物質も時間と共に変化していきます。精神的存在が虚構であるならば、物質的存在も虚構です。すべては時代が生み出したものなのです。

精神と物質、すべてを含めた虚構の奥を見通した時、天の意志が見えてきます。それは個人の幸福を超えたものでありながら、個人が幸福になるためにはそれに沿う必要があるのです。大きなパラドックス(矛盾、逆説)ですが、歴史はそのことを教えてくれています。

僕らの未来は予測不能です。それは現代が混乱の極みにあるからではなく、それが生命の本質なのです。なぜなら、僕らは自らの意思で生きているのではなく世界に生かされているからです。自分のコントロールを超えています。出会うことをいただいていく。そして、それを踏まえて真剣に考えていく。その姿勢が人を成長させるのです。それが時代人の生き方であり、今、時代主義が始まっているのです(^-^)




※このブログは以下の記事を参考に書きました。

ユヴァル・ハラリが語る「シリコンバレーで生まれる21世紀の宗教」

人類の繁栄とは”虚構”の上にあるのです

「サピエンス全史」ユヴァル・ノア・ハラリ氏 「虚構の力」を超えるために

貨幣や宗教は虚構「サピエンス全史」ユダヤ人著者が語ったこと

虚構が起こした革命ー『サピエンス全史 文明の構造と人類の幸福』



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